【VR事例】VR医療トレーニングでCOVID-19患者の命を救う

ニューヨークの医療従事者は、米国で最初にICUの逼迫とCOVID-19患者の流入に対処しなければなりませんでした。そんな状況下、医師や看護師たちは、治療法が確立されていない新しい病気と戦いながら、結果を見て学ばなければなりませんでした。

ニューヨーク長老派病院ワイル・コーネル・メディカル・センターの医師であるKevin Ching氏はこの4月に、ニューヨークの医療従事者が貴重な知識を持っており、それが他の地域の命を救うかもしれないと考えました。そこで彼は、ペンシルベニア大学アネンバーグ・スクール・フォー・コミュニケーション のスタッフであるKyle Cassidy氏に、COVID-19患者を治療する最良事例を示すVR医療トレーニング動画の作成を依頼しました。

ワイル・コーネル・メディカル・センター、アネンバーグ、ペンシルベニア大学医学部、ペンシルベニア大学看護学部、ペンシルベニア大学図書館のスタッフは、トレーニングの作成に向けて行動を開始しました。彼らは脚本を書き、医療従事者を「役者」として起用し、Insta360 Pro 2を使ってペンシルベニア大学病院の救急部で動画を撮影しました。その結果、呼吸不全のあるCOVID-19患者の蘇生に関する、無料で視聴できるVRトレーニング動画が完成しました。

私たちはこの画期的なVR医療トレーニングプロジェクトにどのように取り組んだのか、Cassidy氏にインタビューしました。Cassidy 氏はVRを用いた学際的な研究でPenn Model of Excellence 賞を受賞しており、これまでにもオピオイドの過剰摂取を回復させる鼻腔スプレーの医療従事者向けVRトレーニングを制作しています。

1. 今回のVR医療トレーニングプロジェクトの使命は何でしたか? 

私たちがこのプロジェクトを始めた2020年4月中旬は、ニューヨークではすでに多くのCOVID-19患者が発生していました。ICUは患者であふれ、通りには臨時の野戦病院が設置されていました。しかし、アメリカにはまだ最初の患者が出ていない地域があり、人々は状況を見守っていました。

したがって私たちの使命は、ニューヨークやフィラデルフィアなどの被災地の医師が学んだ専門知識を、まだ患者が大量に発生していない地域の医師に提供することでした。それによって、そのような地域の医師が、ニューヨークが長い時間と多くの命と引き換えに学んできたことに対して備えることができると期待したのです。

2. COVID-19の医療トレーニングなどでVRを利用する利点は何ですか?

この動画のコンセプトは、視聴者が医師となって患者と同じ部屋に立つ、というものです。周りにあるものはすべて見慣れたものですが、最新かつ最良の技術や治療方法のことは知らないかもしれません。

この動画では文字を重ねて表示することで、経験豊富な医師が今起きていること、どのようなことに配慮しているかを教えてくれます。人工呼吸器の設定、各種薬剤の適切な投与量、COVID-19への曝露を低減すための挿管の最適な方法、さらには病院内の他の場所への曝露を最小限にするためにドアを閉めるといった単純なことまで、数え切れないほどたくさんの詳細な情報が含まれています。

COVID-19 VR medical training

この環境では、自分の周りでいろいろな事が速いスピードで起こり、ベッドの四方で同時に作業が行われています。この動画を単なるトレーニング映画ではなく、まさにその空間にいるような体験ができる作品にしたかったのです。

3. 人を集めるのが難しい時期にこのプロジェクトを非常に迅速に完了させましたが、どのような課題がありましたか? 

プロジェクトを早期に完了させようとする医療従事者の意欲には本当に驚かされました。最初の打ち合わせから撮影まで7〜10日程度で終わったのは、これまで携わってきた動画プロジェクトの中で最も早かったのではないかと思います。医師がボランティアで参加し、病院がスペースを提供し、多くの人が脚本を書く手助けをしてくれました。

驚異的なスピードで完成できたのは、みんなのモチベーションが高かったからです。このトレーニングで命が救われると信じており、早く完了させたいという気持ちが浸透していたのです。ズームを使ったミーティングでは、パンデミックの拡大や、被害者の数の拡大から見て、今にでもパンデミックが発生したらどうなるか、という話をしていたのを覚えています。

もっとも時間がかかったのは、実は書類作成でした。病院に行く許可を得たり、動画に関してすべての組織から署名をもらったり、適切な免責事項の文章を用意したり、といったことが必要でした。しかし今回のケースでは、重要性について誰もが承知していたため、全員がペースを上げて働いていました。

役者として参加した医師や看護師たちは全員、COVID-19の患者の治療で12時間の勤務を終えたばかりでした。彼らはこの撮影のために3時間余計に居残りましたが、その分の手当や代休は一切ありませんでした。アリゾナやノースダコタなどの医師たちに自分たちと同じような思いをさせたくない。それがみんなのモチベーションでした。

filming a VR medical training with Insta360 Pro 2

4. 医療従事者はこれまでのVR医療トレーニングをどのように見ていますか? 

医療機関のメーリングリストで配信したので、これまでは医師から医師に共有されてきました。現時点での視聴回数は7万回を超えています。

最初にアンケートを取ったところ、少なくとも公開当初はほとんどの人が携帯電話やパソコンなどのフラットスクリーンで視聴していました。これは皆さんが予想外に自宅にいたり、利用可能な機材と共に隔離されていたことが大きな理由です。しかし病院ではGoogle Cardboardのような非常に安価なVRヘッドセットをまとめて注文し、医療スタッフに配布することも簡単にできます。 

病院ではGoogle Cardboardのような非常に安価なVRヘッドセットをまとめて注文し、医療スタッフに配布することも簡単にできます。

最初の公開後の反応は圧倒的に肯定的なものでした。特に2つの項目については回答者全員が「同意する」と答え、過半数が「強く同意する」と答えました。

  • 「この動画を見た後、COVID-19患者の呼吸不全の蘇生に参加する準備ができたと感じる」
  • 「この動画によるデモンストレーションは、私のチームおよび私がCOVID-19患者の呼吸不全の蘇生に向けて共に準備するのに役立つであろう」

この「ニューノーマル」な教え方が今後どうなっていくのかと考えています。特に医療現場のように伝統的な「見てやって覚える」ような環境では、家でVRを見ることもその一つになると思います。特にInsta360 Pro 2のような8K 3Dで記録できるカメラがあれば、VRで見るのは簡単です。場所やイベントに人々を連れて行くのではなく、むしろその逆に人々に場所を届けることができるのです。 

COVID-19 VR medical training

5. 現時点で取り組んでいるVRトレーニングのプロジェクトは他にありますか?

次に考えているのは、360度動画に決定木を追加することです。例えば、「この人にこのタイプの治療介入をするか? あるいはこちらのタイプの治療介入をするか?」といった判断を、インタラクティブに行えるようにしたいと考えています。

また、アクセスや予約が困難な場所に学生を連れて行ける360度動画も制作しています。例えば、救急車やヘリコプター、備品棚など、簡単に50人や250人、1000人もの生徒を連れて行けないような場所で動画を撮影しています。学生たちを連れて行く代わりに、動画と共にGoogle Cardboardのヘッドセットを学生たちの自宅に届けて、「今週はこの4つの動画で、緊急時に救急車から脱出する方法を説明します」と言えばいいのです。

アネンバーグ・スクールでは遠隔授業の将来性に非常に興味を持っています。これはいま現在、遠隔地で授業が行われていることはもちろんですが、救急車やヘリコプターがアクセスできなかったり、COVIDの患者を何十人も治療してきた医師に教えてもらうことができないような、サービスの行き届いていない地域にリソースを提供することができるからです。

360度動画、特に高解像度の動画は、他では困難な方法で情報を届けることができます。ペンシルベニア大学には素晴らしいリソースがありますが、例えば渓谷や砂漠、熱帯雨林などはありません。世界中でペンシルベニア大学の医師や学生が活躍していますが、このテクノロジーは彼らが体験したことを持ち帰る機会を与えてくれます。

今回のロックダウンは、移動しなくても手に入れられる良いものがたくさんあるということを教えてくれたと思います。没入型動画は遠隔作業をより簡単にし、少なくともこれまでとは違うものにしようとしています。また、時間とお金の節約になり、二酸化炭素排出量の削減にもつながります。

360度動画、特に高解像度の動画は、他では困難な方法で
情報を届けることができます。

1月にサンディエゴで開催された医療関係の会議でVR動画を発表しましたが、飛行機で行く代わりにInsta360 Proでプレゼンテーションを録画し、出席者にはVRで見てもらいました。移動して15分の講演をするのに3日間を費やすことなく、講演に関心のある人から後でメールをもらいました。これはちょっとした勝利だと思いました。


Insta360でのVR事例をもっと知りたい方は、「Insta360 VR活用事例:Pro 2、Titan導入メリット&体験セミナー紹介」をご覧ください。

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