COVID-19による厳しい隔離政策のため、スペインの病院内にある集中治療室 (ICU) の患者の多くは、何ヶ月もの間、家族や友人の面会を禁じられてきました。ICUの患者は回復するまで最長3ヶ月間入院しますが、その間に面会の機会は一度もありません。
バルセロナを拠点に活動する写真家、Rafa Lanús氏は自身のスタジオで埃をかぶったVRカメラを見ているうちに思いつきました。仮想現実を利用して、このような家族が再会できるようにすればどうだろう?、と。
友人とともに Reality Telling社を立ち上げた Lanús氏は、スペイン最大の公立病院の一つ、 Hospital del Marに働き掛けました。Reality Telling社は過去数ヶ月間に入院患者のいくつかの家族を訪れ、愛する人のために向けたメッセージをVRカメラのInsta360 Proで録画しました。
ICUの患者はこの動画をVRヘッドセットで視聴することで、病室に家族と一緒にいるかのような体験ができます。「VR技術を利用して家庭のぬくもりを病院に届けて、短い時間ですが患者さんがICUの孤立した環境から自由になる手助けをしています」と Lanús氏は述べています。
ICUの医師によると、VRメッセージは患者の感情状態を改善し、ひいては回復までの時間を短縮するとのことです。最初に家族からのメッセージを見た患者の一人、Anna Bernal Martinezさんは、この体験について次のように語っています。「これはこの病院からもらった最高の薬です。病院で治療はできます。ですが、この薬は私に何と言っていいか分からないほどの喜びを与えてくれました。沢山の力を与えてくれるものです… とても感動しました」。彼女の反応は以下の動画をご覧ください。
VR技術でICUを人間らしく
Hospital del Marの医師らは、2年前からICUを「人間らしく」するためのプログラムを試みています。Hospital del Mar (海の病院) は、バルセロネータ・ビーチのちょうど真向かいに位置し、地中海を見渡すことができます。同病院でICUヒューマニゼーション・プロジェクトを主導するJudith Marín医師は昨年、ICU患者の感情を改善するためにビーチへの小旅行を行ったことで、すでに話題になっていました。
家族を再会させる前に、Reality Telling社はビーチでの日の出のテスト映像を撮影することにしました。患者がVRヘッドセットを装着することにどのような反応を示すか分かりませんでしたが、テストは大成功でした。「15分間、太陽が昇るのを見、音を聞き、通り過ぎる人々を見ることは、患者さんにとって自分たちが置かれた現実から離れるためのとても良い方法です」とLanús氏は述べています。
次に、Reality Telling社は家族を再会させる作業に取り掛かりました。最初に家族からのVRメッセージを受け取ったのは、2カ月以上も入院していて家族に会えなかったAnna Bernal Martinezさんでした。Lanús氏は次のように述べています。「私たちはAnnaの娘さんの家に行きました。そこで娘さんと息子さんたちはおばあちゃんに最高にかわいい挨拶を送ってくれました! 映像を見ているAnnaの姿を見るのは素晴らしい体験でした」
「家族からのメッセージは患者さんがよりポジティブな視点で未来を見る手助けとなります」
–Marín医師、HOSPITAL DEL MAR
ICU患者の生活の質を向上させるだけでなく、家族からこのようなメッセージを受け取ることで、患者の回復にも役立つとMarín医師は考えています。「患者さんの感情が改善されることで、回復のプロセスが早くなることに大いに役立ちます。家族からのメッセージは、患者さんがよりポジティブな視点で未来を見る手助けとなり、この隔離された段階が終わりに近づき、もうすぐ家に帰れるということを実感させてくれます」とMarín医師は述べています。
ICUにいるすべての患者が回復することが望まれますが、VRメッセージはICUの患者が亡くなる前に最後に家族に会うための手段にもなります。「患者さんは、自宅でマスクを着けない自然な環境で、家族との最後のお別れができます」とLanús氏は述べています。
「生まれ変わる」カメラ
Reality Tellingのチームは、Insta360 Proをラテン語で「生まれ変わる」を意味する「Renata」と呼んでいます。スタジオで埃をかぶっていたものが今では家族をひとつにするまでになったこのVRカメラの力を、チームはこのプロジェクトで再発見することとなりました。
Reality Telling社では今後、このプロジェクトをスペイン国内のさらに3つの病院で展開するとともに、他の国にも拡大していく予定です。彼らはすでに国境を越えて、Hospital del Marの別の患者のためにルーマニアでメッセージを録音しました。友人の協力を得て、ルーマニアにある彼の自宅を撮影しましたが、そこには家族だけでなく彼が育てた家庭菜園も映っていました。「4ヵ月間過ごしているベッドで横になりながら、何千キロも離れた場所にある自分の家を見て、彼は信じられない様子でした」とLanús氏は述べています。
このプロジェクトの成功に触発されて、Reality Telling社は現在、小児がん患者のためのメッセージの録音にも取り組んでいます。彼らは、自分たちのプロジェクトが世界中のVRコンテンツ制作者に刺激を与え、映像を共有することで、より多くの患者の夢の実現に貢献したいと考えています。「子供が病気と闘いながら、サメと泳いだり、好きなパフォーマーのコンサートを生で見たり、スポーツイベントを観戦したり、エベレストで世界の頂点を制覇したりすることを想像してみてください 」Lanús氏はVR映像の可能性をこのように述べています。
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