自宅にいながらにして美術展に行き、世界で最も優れたアーティストの作品をVRで体験する様子を想像してみてください。京都に拠点を置くソリューションデザインスタジオ、アクチュアル株式会社は、4年以上前からバーチャルアート展を開催し、アートを身近なものにしてきました。
アクチュアル社が映像で記録した最新の展覧会は、鹿児島県霧島アートの森で行われた植松奎二展「ナンセンスな旅への招待ーみることの夢」です。植松氏は50年以上の活動歴を持つ現代美術作家で、鉄や岩、ガラスを用いた彫刻で知られています。この展覧会では、日本各地を巡りながら観察した、火や土、水、空気が様々な形に変化する様子が展示されています。11K解像度のInsta360 Titanカメラで撮影されたこのようなバーチャルアート展は、VRには世界中のアーティストと美術館、そして芸術愛好家を繋ぐ力があることを示しています。
こちらをクリックするとこの展覧会の様子をVRでご覧いただけます。また、このブログではアクチュアル株式会社CEOの辻勇樹氏に、真に没入感のあるバーチャルアート展を実現するために何が必要かについて伺っていますので、併せてご一読ください。
なぜアート展に360度メディアを活用するべきであるとお考えでしょうか?
アクチュアル株式会社は、デザインソリューションとサービスを調査・事業構想からハンズオンでの制作・運営まで、日本全国のクライアントに提供しています。弊社では2018年からVR展覧会を利用していますが、その後「ART360°」というプロジェクトで提案する機会がありました。このプロジェクトは、展覧会を360度動画形式でアーカイブして多言語で配信する、というものでした。
1. 境界のないデジタル化された体験
私たちは、身体は人間にとって唯一のオリジナルであり、芸術体験で最も重要なことは作品を身体で感じ、考え、自分の行動を振り返ることである、と考えます。しかし、身体を持つということは空間と時間の制限を受けることになるので、世界のすべてを体験することができなくなることにもなります。
私たちは日本という独特の文化と言語を持つ島国に住んでいるため、芸術やメディアにおける個人体験が有限であることを深く認識しています。VR展覧会は私たちの経験をデジタル化する鍵である、と私たちは信じています。デジタル化することで誰もが時間と距離を越えて世界を探索する機会を得ることができます。また、到達することが困難な世界の隅々に至るまでユニークで素晴らしい経験を発見することができるようになります。
2. 360度メディアはその空間で起こることをすべて記録する
360度メディアの目的は、空間を記録することです。360度のカメラビューでシーンを記録・保存すると、ユーザーはその空間の周囲で起こっているすべてのことを見ることができます。そして物と人との関係性をよりよく理解できるようになります。
3. 何も隠すことができない
360度カメラは周囲全体を撮影し映し出すため、ごまかしが効きません。360度メディアはフレーミングがもたらす不信感を取り除くことができます。
4. 一人ひとりの解釈を許容するメディアが作れる
360度コンテンツは見る人それぞれが独自の視点で解釈する機会が与えられます。そのため、同じコンテンツでも人によって異なる意見をすべて評価し尊重することができます。
VR展覧会の制作に必要なツールは何ですか?
アートを記録する上で最も重要な要素のひとつは、アーティストやキュレーターを満足させることができる高品質な画像である、と私たちは考えます。
良好な視聴体験のためには360度動画撮影した3D立体視が不可欠です。私たちが始めた頃は、まだ日本では360度撮影が一般的ではなかったので、撮影できたのは美術館の開館直前および閉館直後の限られた時間だけでした。充実したアプリケーションと現場でのスムーズなワークフローがなければ、撮影の許可を得ることはできなかったでしょう。ここで威力を発揮したのがInsta360です。
Insta360 Proが発売される以前は、小型の360度カメラでプロトタイピングを行っていました。しかし、小型カメラの画質は美術アーカイブに活用できるものではないことがわかりました。当時は、アクションカメラとデジタル一眼レフカメラを組み合わせることも検討しましたが、現場での操作性の点で現実的な組み合わせはありませんでした。そのため、Insta360 Proは私たちにとってこれ以上ないタイミングで登場したことになります。それ以来、Pro 2、Insta360 Titan、その他の機種をすべて使い続けています。
ワークフローの各ステップで実施する内容を教えていただけますか?
ステップ1:機材のチェック
まず、撮影前日に機材の動作チェックを行います。きちんと起動するか、ストレージは読み込めるかなど、不具合が起きないように各レンズごとに点検します。
ステップ2:会場の地図を入手する
VR展覧会の前には、事前にキュレーターから会場の地図をもらい、撮影ポイントや総撮影時間を見積もります。特に長時間の撮影が必要な映像作品や展示品はないか、移動撮影はないかなどを確認し、美術館の担当者と情報を共有します。
ステップ3:事前に訪問し、アートを理解する
バーチャルアート展の撮影当日は通常、実際の展示時間よりも前に美術館を訪れ、事前に作品を鑑賞して展示作品の意図を理解します。そこから、作り手のメッセージがどこにあるのか、鑑賞者は作品をどのように見るのかを見極め、さらに作り手と鑑賞者の両方の視点から撮影ポイントを定めていきます。
ステップ4:撮影開始
展覧会で撮影する際は、限られた時間枠の中ですべてを記録しなければなりません。また、展覧会は通常、LEDや蛍光灯、プロジェクターなど多数の光源がある特殊な空間で行われるので、こちら側で調整できないことも多いです。このことは映像作品を作る上で非常な困難をもたらします。そのため、フリッカーを抑制するためシャッター速度を調節したり、露出やISO感度を微調整しながら撮影できるInsta360のようなソリューションが必須になります。
Insta360ではオリジナルのコンテンツをiPadですぐに確認できるため、エラーがあってもその場で気づくことができます。また、PCなどでアーティストやキュレーターと確認しながら、複数人が同じ目的意識を持って仕事ができる点も気に入っています。
それらを踏まえた上で最も印象に残っているプロジェクトは、「Five Rooms For Kyoto: 1972-2019 by Joan Jonas」という展覧会です。ジョーン・ジョナス氏の第34回(2018年)京都賞受賞を記念して2019年12月から2020年2月にかけて京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催された、国内最大規模の個展です。
バーチャルアート展は今後どのようになりますか?
ヘッドセットの普及による需要
VR展覧会を普及させるためには、メディア体験の革新が不可欠です。ヘッドセットの高解像度化や通信速度の高速化など、さまざまな技術的ハードルを乗り越える必要がありますが、今後これらの問題が解決されたとき、VR展覧会は美術鑑賞の一般的なスタイルになると考えています。
現在、VR展覧会が普及しないのは、フラットスクリーンが今でも映像や写真を見るためのデジタルインターフェイスの主流だからです。ヘッドセットのような体の一部として機能するインターフェースが普及すれば、現在記録している360度映像も芸術体験になると考えています。
使い勝手の良さ
現在、私たちはWHERENESSという360度メディアクラウドを開発しています。WHERENESSは誰でも簡単に360度コンテンツを編集・管理・共有できるようにすることでフレーミングのないメディアの普及を目指したSaaS型クラウドアプリケーションです。2Dメディアの配信が主流のプラットフォームでこのようなことを実現するのは困難です。私たちは、より多くの人に360度コンテンツを活用してもらうためにはクラウドソリューションが必要だ、という結論に至りました。私たちの目標は単に撮影して編集するだけに止まりません。フレームレスメディアの記録を作成し現代社会に発信するためのシステムを提供していきたいと考えています。
最後に…
アクチュアル株式会社はこれまでにない水準のVR展覧会を現場で撮影・編集・共有しています。あなたもその一員になりませんか? アクチュアル社のウェブサイトではVR展覧会の分野で同社がこれまでに手がけた作品を観ることができます。
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